君が為

「ーー眼を覚まされたようで、何よりです……気分は如何ですか」



無表情のまま、藍色の着物を着た人が訊ねた。



怪しい匂いをプンプンに漂わせる二人に、私の警戒心は最高潮。



太腿の上に置いた手が、いつの間にか拳に変わる。



それでも、男たちに恐怖心を悟られまいと平然を装った。



「大丈夫です……見ず知らずの私にを助けて頂き、有難うございました」




手前の男が、いいえと首を振る。
僅かに口元が上がっていた。




どうやら男たちは、私の強がりを全て見透かしているようだ。



心の中で、舌打ちする。



「あの、此処はどこですか」



「ここは、壬生浪士組屯所の一角です。……まぁ、最近できたばかりですから、貴女は知らないかもしれませんがね」



ここで漸く、藍色男の無表情が解けた。



その表情は一瞬にすぎない。



けれど、あどけない穏やかな笑みを浮かべた男の顔は、私の目に色濃く焼き付いた。



「壬生浪士組……」




そんな所……知らない。



十年以上も住んでいた土地なのに、【壬生浪士組】なんて場所は、今まで聞いたこともなかった。



そう言えば“最近できたばかり”って言ってたっけ。



でも、普段着に着物を着る人が住んでいる純和風な家なんて、直ぐに噂になりそうだけど……。



「自己紹介がまだでしたね。私は沖田 総司と言います。そして隣に居るのが」



「藤堂 平助」



部屋の隅にいた若草色の着物を着た男がが、私を睨みながらも頭を下げた。



どうやら、この人もまた、私を警戒しているらしい。