涙色に染まる鳥居の下で
優子
 今日は家族四人で、伏見稲荷大社まで初詣に来ている。
 元旦とあって、すさまじい人ごみだ。
 何でも数年前のデータでは、伏見稲荷大社は初詣に来た人の数が全国4位だったらしい。
 今年も例年通りの混雑ぶりで、歩くのにも苦労するほどだ。
「いつ来ても、混んでるね」
 夫の武文(たけふみ)が苦笑して言う。
「まぁ、のんびり行こうよ。なぁ、奈津美(なつみ)」
 そう言うのは息子の文彦(ふみひこ)。
 その言葉に微笑みながら頷く奈津美は、娘だ。
 文彦と奈津美は同い年だけど、双子ではない。
 どういうことかと言うと、武文と私はお互い再婚だからだ。
 文彦は武文の連れ子、奈津美は私の連れ子なので、血は繋がっていない。
 なので、再婚当初は、武文も私も「子供同士が仲良くできるだろうか」と非常に気をもんだ。
 だけど、それは杞憂に終わった。
 初対面のときこそ、お互い言葉少なだったけど、今はこのように仲良くしてくれているから。
 思えば、昨年末から、よりいっそう仲良くなっている気がする。
 二人の間に何かきっかけがあったのだろうか。
 私にはその理由をうかがい知ることができないけど、あまり気にしなくても良いと思っている。
 きっかけが何であれ、兄妹仲良くしてくれていれば、武文にとっても私にとってもすごく嬉しいことだから。
「じゃあ、次は千本鳥居に行こう!」
 明るく言う武文に、子供たちも「おー!」と元気な声を返す。
 こうして家族みんなが仲良しだということは、私にとってこの上ない幸せだ。
 本当に、この人と結婚できてよかったと思う。
 私はこっそりと武文の横顔を盗み見る。
 その笑顔につられ、私も自然と笑顔になった。
「ん? 優子、さっきから黙ってるな。どうかしたのか?」
 武文が、不意に私に尋ねる。
「ううん、何でも。ただ、人が多いなぁって思って」
「ははは、たしかに。毎年のことながら、来る度に改めてそう感じるな」
 笑いながら左手で頭を掻く武文。
 その手首には、まだ恋人同士だった頃に、私がプレゼントした銀色の腕時計が光っている。
 また、薬指の結婚指輪も、結婚以来ずっとつけてくれている武文。
 そういうところに私への深い愛情を感じ、嬉しくなるのだ。
 何年か前に文彦が「父さんのその時計、いいな。似たのが欲しい」と言ってきたので、私から同じものをプレゼントしてあげた。
 親子お揃いの時計で、見るからに仲良さげだ。
 そして、実際仲良しの二人。
 さすがに文彦は、その手の薬指に、武文のような指輪はしていないけれど。
 言うまでもなく、未婚なので。
「千本鳥居、あっちだよ。早く行こうよ」
 奈津美が、待ちきれない様子で言う。
 千本鳥居というのは、その名のとおり、数多くの鳥居が立ち並んでいる場所だ。
 狭い間隔で、数多くの鳥居が立ち並ぶ姿は非常に日本的で美しく、名所の一つとなっている。
 当然、元旦である今朝は、黒山の人だかりだろうけど。
「じゃあ、行くか。はぐれないように、文彦と奈津美も手をつなげよ」
 子供たちに注意する武文。
 二人は「はーい」と答えて、手を繋ぐ。
「じゃあ、僕らも」
 そう言って、武文は私の手を取る。
 武文の手のぬくもりに、安心感を感じながら、私はみんなと共に千本鳥居へと向かった。
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