涙色に染まる鳥居の下で
奈津美
12月2日、私はお兄ちゃんと一緒に地主神社(じしゅじんじゃ)に来ていた。
前日に電話で誘ったところ、快諾してもらったからだ。
外は凍えるように寒く、人影もまばらだった。
地主神社は、縁結びの神社として全国的に有名な神社で、清水寺のすぐそばにある。
しかし、京都生まれ京都育ちの私とは違い、お兄ちゃんは京都出身ではないため、この神社が縁結びで有名だということを到着して初めて知ったようだ。
昨日、「恋占いをしたいから、行ってみない?」と言って、お兄ちゃんを誘った。
血の繋がりはないとはいえ、やはりお兄ちゃんはお兄ちゃんということで、私としてもなかなか思いを伝えることができずにいる。
世間体も気になってしまうし……。
「それで、奈津美は誰が好きなの?」
お兄ちゃんの突然の問いかけに、ドキリとする私。
思いを悟られてはいけない……とは思うものの、咄嗟に上手い嘘が思いつかない。
「えっと、まぁ……恥ずかしいから……その質問はパス」
「ふーん」
それ以上追及してこないようなので、私は胸をなでおろした。
「そうそう、あれが有名な『恋占いの石』だよ」
話を変えようと、私は「恋占いの石」を指差して言う。
石には綱のようなものが巻かれており、「恋占いの石」と書かれたプレートがついていた。
また、その石から10メートルほど離れた場所にも、同じような石がある。
「あの二つの石?」
「うん。片方の石から目を閉じて歩き始めて、無事にもう片方の石までたどり着くことができると、恋の願いが叶うと伝えられているの。当然、一発でたどり着けるほうが、恋の成就が早くなるんだって。それと、他の人にアドバイスを受けた場合、『人の助けを借りて恋が成就する』って言われてるんだよ」
「え~。アドバイスを受けるって、なんかズルくない?」
悪戯(いたずら)っぽく笑う兄に、私は「別にズルくないよ~」と言い返す。
そして話を続けた。
「でね。この石で恋占いをすることが、ここの神社に参拝する大きな目的の一つでもあるんだよ。かなり有名な話だからね」
「なるほど~。そして、奈津美は俺に手伝ってほしい、というわけか」
「え?」
別にそういうつもりで連れてきたわけではないので、戸惑ってしまう。
私としては、「恋人同士でこの神社に来る人々が多い」ということを耳にして、密かにそのつもりでお兄ちゃんを連れてきたのだ。
もっとも、お兄ちゃんはそういうことを知らないし、それどころか、私の気持ちすら知らないんだけど。
「いいってば。後で俺もやるから、そのときは同じように手伝ってくれよ」
「ええっ?」
ま、まさか……。
お兄ちゃんにはもう、他に好きな人がいるんじゃ……?
でも、そうとしか思えない発言だ。
心の動揺を抑えるのに苦労する私。
「さぁ、まず奈津美から、やってみろよ。アドバイスは任せろ」
お兄ちゃんの屈託のない笑顔が、今の私の心には痛かった。
これで、ますます思いを伝えにくくなっちゃった……。
しかし、どうにか悟られないように取り繕いつつ、私は恋占いを始めた。
お兄ちゃんのアドバイスのお陰もあり、無事に私は反対側の石までたどり着き、安堵の吐息を漏らす。
少なくとも恋占いは成功ということで、ホッと一安心。
次に同じように行ったお兄ちゃんも、無事に成功した。
かけられた感謝の言葉が、今の私にとってはつらい。
お兄ちゃんの恋が成就するということは、私の失恋を意味するから……。
私はグッと唇を噛み締めた。
前日に電話で誘ったところ、快諾してもらったからだ。
外は凍えるように寒く、人影もまばらだった。
地主神社は、縁結びの神社として全国的に有名な神社で、清水寺のすぐそばにある。
しかし、京都生まれ京都育ちの私とは違い、お兄ちゃんは京都出身ではないため、この神社が縁結びで有名だということを到着して初めて知ったようだ。
昨日、「恋占いをしたいから、行ってみない?」と言って、お兄ちゃんを誘った。
血の繋がりはないとはいえ、やはりお兄ちゃんはお兄ちゃんということで、私としてもなかなか思いを伝えることができずにいる。
世間体も気になってしまうし……。
「それで、奈津美は誰が好きなの?」
お兄ちゃんの突然の問いかけに、ドキリとする私。
思いを悟られてはいけない……とは思うものの、咄嗟に上手い嘘が思いつかない。
「えっと、まぁ……恥ずかしいから……その質問はパス」
「ふーん」
それ以上追及してこないようなので、私は胸をなでおろした。
「そうそう、あれが有名な『恋占いの石』だよ」
話を変えようと、私は「恋占いの石」を指差して言う。
石には綱のようなものが巻かれており、「恋占いの石」と書かれたプレートがついていた。
また、その石から10メートルほど離れた場所にも、同じような石がある。
「あの二つの石?」
「うん。片方の石から目を閉じて歩き始めて、無事にもう片方の石までたどり着くことができると、恋の願いが叶うと伝えられているの。当然、一発でたどり着けるほうが、恋の成就が早くなるんだって。それと、他の人にアドバイスを受けた場合、『人の助けを借りて恋が成就する』って言われてるんだよ」
「え~。アドバイスを受けるって、なんかズルくない?」
悪戯(いたずら)っぽく笑う兄に、私は「別にズルくないよ~」と言い返す。
そして話を続けた。
「でね。この石で恋占いをすることが、ここの神社に参拝する大きな目的の一つでもあるんだよ。かなり有名な話だからね」
「なるほど~。そして、奈津美は俺に手伝ってほしい、というわけか」
「え?」
別にそういうつもりで連れてきたわけではないので、戸惑ってしまう。
私としては、「恋人同士でこの神社に来る人々が多い」ということを耳にして、密かにそのつもりでお兄ちゃんを連れてきたのだ。
もっとも、お兄ちゃんはそういうことを知らないし、それどころか、私の気持ちすら知らないんだけど。
「いいってば。後で俺もやるから、そのときは同じように手伝ってくれよ」
「ええっ?」
ま、まさか……。
お兄ちゃんにはもう、他に好きな人がいるんじゃ……?
でも、そうとしか思えない発言だ。
心の動揺を抑えるのに苦労する私。
「さぁ、まず奈津美から、やってみろよ。アドバイスは任せろ」
お兄ちゃんの屈託のない笑顔が、今の私の心には痛かった。
これで、ますます思いを伝えにくくなっちゃった……。
しかし、どうにか悟られないように取り繕いつつ、私は恋占いを始めた。
お兄ちゃんのアドバイスのお陰もあり、無事に私は反対側の石までたどり着き、安堵の吐息を漏らす。
少なくとも恋占いは成功ということで、ホッと一安心。
次に同じように行ったお兄ちゃんも、無事に成功した。
かけられた感謝の言葉が、今の私にとってはつらい。
お兄ちゃんの恋が成就するということは、私の失恋を意味するから……。
私はグッと唇を噛み締めた。