涙色に染まる鳥居の下で
優子
事故から数年後―――。
ある冬の日、私は地主神社に来ていた。
武文と何度もデートした、思い出の場所だ。
もう武文にも、息子の文彦にも、永遠に会えないけど……。
悲しんでばかりいると、二人にも申し訳ないので、私はどうにか前向きに考えようと、常々努力しているところだ。
それでも、二人を亡くしてから一年は、抜け殻のようになってしまっていた。
賠償金や保険金などの手続きを、両親にお任せしてしまうほどに。
お参りを済ませたあと、私は神社を後にした。
重い足取りで。
しかし、駅まで歩いていると、すぐに後ろから誰かが声をかけてきた。
「すみません」
その人は、私と同い年くらいの年恰好に見える男性だ。
私は「はい」と答えて、ふとその人の左手に視線を落とすと、見慣れたハンカチを持っているのが分かった。
そのハンカチ……私のだ!
「落とされましたよ」
「あ、ありがとうございます!」
私はすぐにお礼を言って頭を下げる。
お気に入りのハンカチだったので、本当に嬉しい。
失くしちゃうところだったんだ……。
本当によかった……。
「いえいえ。それでは、私はこれで」
その人は丁寧に一礼すると、逆方向へと歩き去っていく。
私は、「世の中、良い人もいるもんだなぁ」と思い、少し心が温かくなった気がした。
ある冬の日、私は地主神社に来ていた。
武文と何度もデートした、思い出の場所だ。
もう武文にも、息子の文彦にも、永遠に会えないけど……。
悲しんでばかりいると、二人にも申し訳ないので、私はどうにか前向きに考えようと、常々努力しているところだ。
それでも、二人を亡くしてから一年は、抜け殻のようになってしまっていた。
賠償金や保険金などの手続きを、両親にお任せしてしまうほどに。
お参りを済ませたあと、私は神社を後にした。
重い足取りで。
しかし、駅まで歩いていると、すぐに後ろから誰かが声をかけてきた。
「すみません」
その人は、私と同い年くらいの年恰好に見える男性だ。
私は「はい」と答えて、ふとその人の左手に視線を落とすと、見慣れたハンカチを持っているのが分かった。
そのハンカチ……私のだ!
「落とされましたよ」
「あ、ありがとうございます!」
私はすぐにお礼を言って頭を下げる。
お気に入りのハンカチだったので、本当に嬉しい。
失くしちゃうところだったんだ……。
本当によかった……。
「いえいえ。それでは、私はこれで」
その人は丁寧に一礼すると、逆方向へと歩き去っていく。
私は、「世の中、良い人もいるもんだなぁ」と思い、少し心が温かくなった気がした。