『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
ハンカチで目元を拭い、顔を上げる。


「……いく」


泣きすぎたせいで声が少し掠れる。
梅之介が「相変わらず食いしんぼだな」とため息をついた。


「よし、行くか。この先にいい肉を扱ってる店があるんだ」


眞人さんが私の手を取った。引くようにして歩き出す。


「僕、丸腸! あとハチノスとギアラかなー」

「何でも食え」


眞人さんの半歩ほど後ろを歩く。繋がれた手をじっと見下ろす。


「どう、しよう……」


聞こえてしまわないように、小さく、小さく声にした。

繋がれた手が熱い。
そして、さっき眞人さんの唇が触れたところが熱い。
その熱は私の体中にゆっくりと広がっていく。私の体から、心までも熱くしていく。


『白路が俺のものだから』


彼の言葉が、何度も繰り返される。
それはなんて、私を甘く痺れさせるのだろう。

ああ、どうしよう。
私、この人のこと、好きになってしまった。


「シロはさー……」


梅之介が振り返って、私を見る。その眉根に一瞬皺が寄せられた。


「……ホルモン、大丈夫?」

「あ、うん。す、き」

「そう」


梅之介は何か言いかけて、しかし口を閉じた。視線を前へと戻す。

梅之介は、私に忠告した。何度も。
なのに、私は、眞人さんのことが好きになってしまった。
好きになっちゃいけないと、あんなに言われていたのに……。

しかし、繋がれた手を自分から解くことは、私にはもうできなかった。

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