裏道万屋の事情
『――そっ………か…。…じゃああたし帰るわ。』

「菜子っ??!!」



樹里があたしを呼んだけど、聞こえない振りをした。



あたしは病室を出て廊下を走った。


途中でギョッとした顔の看護婦さんが走るあたしを慌てて制止させようとしてきたけど、あたしはそれをかわす。



そして、病院から飛び出した。



























「…なるほど。叶 菜子さんの記憶だけ抜け落ちてしまっているのですね??」



輝明、弘久、諒、樹里は医者に嵐の状態を説明した。



「…あぁ。菜子を通して後から知り合ったこいつ等のことは覚えてるってのに…!!」

「そうですか……」

「先生っ!!嵐くんは菜子のことちゃんと思い出すんですよね?!」

「相原っ。」



諒は医者に詰め寄る樹里を押さえる。



「だって…!!だってこんなのって――こんなのって無いよっ…!!!!何でよりによって菜子だけ――」



樹里はその場にしゃがみこんでぼろぼろと涙を流し始め、両手で顔を覆った。



「…申し訳ありませんが、記憶が戻るかどうか…それは私も判断しかねます。ただ、脳への強い衝撃を受ける瞬間、強く思っていたことだけを忘れてしまう。そう言ったケースの前例はあります。」

「強く…」

「思っていた…」



輝明はふと、夏休みの宿題をした後に一緒に眠ってしまっていた菜子と嵐の姿を思い出した。

犬と猫みたいだ。

あのときただそんな風にしか思わなかったあの2人が、まさか今こんなことになっているなんて…


輝明は拳を震えるほど握りしめた。



「だだ私が言えること…それは――



























嵐くんは余程強く、菜子さんのことを『想って』いたのでしょうね………。」

「「「「………。」」」」
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