裏道万屋の事情
『いってええぇぇぇ!!!!ちょ、おまっ…何思い切り人の頬つねってんだぁ??!!』



あたしは仕返しと言わんばかりに、嵐の両頬をぐにぐにと引っ張る。



「ひらいひらいひらい〜〜〜(痛い痛い痛い〜〜〜)」

『はぁ?!平井?!お前は平井か?!平井 嵐なのか??!!』


あたしはとどめに“たーてたーてよーこよーこまーる書いてちょん!!”を頬に喰らわせてから手を離す。


嵐は両手で頬をさすっていた。



「いたたた…だって菜子、ただ軽くつまんでるだけだったんだもん。あれじゃ痛い訳無い。」

『だからって乙女の顔に何してくれてんだ――…って………嵐、今…』

「??」

『今…あたしのこと名前で……?!』

「………うん。」



あっけらかんとそう答える嵐。



『全部…あたしのこと、思い出したの……??!!』

「そう言われてみれば…全部記憶戻ってるかも…。」

『…何、それ…。』



自分で分かんないの??と言う前に口から言葉が出なくなった。


その代わりに、



『………うっ…ひっく………』



涙と共に嗚咽が漏れる。





そして次の瞬間、あたしは嵐にフワッと包み込むように腕の中に抱き締められていた。
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