裏道万屋の事情
パタンッ


あたしは自分の部屋へ入り、布団に倒れこんだ。


輝さんから聞いた嵐の話は衝撃的なものだった。

もう一度、さっき聞いた話を思い出してみる。











嵐がまだ幼い頃に両親は離婚し、嵐は母親に引き取られた。
母親は嵐の父親と離婚してすぐ、新しい男を作っていた。そして嵐の存在が邪魔になったらしい。

母親は幼い嵐を孤児院に預けた。最初、嵐はずっと母親の迎えを待っていたんだ。けど、迎えは一向に来ない。

成長して物心も付いた嵐は、自分が母親に捨てられたことに気が付き始めた。
その頃から、嵐は口も心も閉ざしてしまった。誰とも話さないし誰とも関わらない。何もせずに施設の中でじっと籠もりきっていた。

これが、嵐が今時の高校生らしくない、世間のことをあまり知らない原因らしい。


それを見兼ねた孤児院の運営者は万屋のことを知って、わらにもすがる思いで輝さんに依頼してきたらしい。

依頼内容は嵐が自立して立派に社会に出られるようにサポートしてほしい、とのことだった。


『それで、輝さんが嵐を救ったんですか…??』

「まぁ、俺が今の状態のあいつに変えたのは確かだ。だが、あいつの心の闇は完全に消し切れてねぇ。幼い頃の傷っていうのは、そう簡単に消せるもんじゃねぇんだ―――。」


苦い表情の輝さん。


「菜子、お前に頼みがある。」

『…何ですか??』

「嵐が今の状態になったとはいえ、自分から他人に自分のことを話すなんて俺と弘以外初めてなんだ。きっとお前に心を開いてくれてるんだと思う…!!だから、あいつがお前を頼ってきたら…力になってやってくんないか…??」


輝さんの真剣な声があたしに突き刺さった。

あたしにできることがあるんだったら………


『…あたぼうよ!!!!』


やってやろーじゃんっ!!

あたしはとびっきりの笑顔でそう答えた。
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