桜は散らず

デート

日曜になった。僕は、朝から身支度に余念がなかった。いつもはあまり洋服にこだわらないが、今日は特別だ。普段は買わない男性用ファッション誌を買い、モデルが着ているのと似た服を購入して、今日に備えていた。そして、ランチがおいしいと女性の後輩から聞き出したレストランも予約してある。待ち合わせて、昼食のあとは、やっぱり王道の映画だ。僕は、うきうきしながらアパートを出た。


待ち合わせの駅前で、桜は時計を気にしながら待っていた。いつもはエプロン姿しか見ないので、私服姿が新鮮だった。背が高い彼女には、春らしいアイボリーのスプリングコートがよく似合っていた。いつもまとめている髪は下ろしていて、ストレートの黒髪が太陽に映えてつやつやと輝いている。僕は、彼女の可憐さに打たれながら、声をかけた。


「桜さん、お待たせしました」


「石田さん。早かったですね」


僕が来たのは決して早くはなかった。彼女なりの気遣いなのだ。桜の優しさは、僕の鼓動を速めるのに十分だった。


それから、僕たちはランチを食べに行った。ランチには、魚料理が出たが、彼女は魚の小骨を口から出すのに、かわいらしい花柄のハンカチを使って、口元を隠していた。そんな上品さが、桜にはよく似合っていた。


映画は、最近評判になったコメディタッチの作品だった。桜は、吹き出しそうになると、くっくっと声を出さないようにこらえていた。全体的によくできた映画で、僕の選択はよかったらしい。桜は、映画館を出ると、面白かった点を挙げてお礼を言ってくれたが、その論評はよく当たっていて、彼女が映画を好むことをうかがわせた。



「石田さん。ちょっとお話したいことがあるんです。どこか、静かな公園でもご存知ないですか」

そろそろ帰ろうかという頃、桜がそう持ちかけてきた。もっと彼女といたかった僕に、異存があるはずもなかった。そして、しばらく考えたが、夜桜のきれいな公園があることを思い出して、そこに桜を誘った。
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