語り話
「なんで!?一回でいいんだマオに会いたい!」

「だからごめんって。」

彼女は淡々と謝るだけ。

「理由は?俺が嫌いだから?」

「違う。」

「じゃあなんだよ!」

「ナカムーは関係ない。」

「関係あるだろ!そんなに俺が嫌いか!」

「違うって!」

「じゃあなんで!!」

「友達が車に引かれた…」

「…え?」

その後、彼女はゆっくりと事情を話始めた。

学校帰りに他校に通っている親友と道路越しに出会ったらしい。

普段あまり車が通らない道路だったため、親友が迷わずマオのもとへ駆け寄ろうとすると運悪く曲がり角から出てきた車に引かれた。

車に乗っていたのは若い男性で、一度だけ窓から身をのりだし状況を確認すると慌てて逃げたらしい。

マオの親友は命に別状はないものの、足と腰、腕の約三ヶ所の骨折をおった。

立ち上がることもままならず、入院して一週間になるという。

ここまで話を聞いて良くできた嘘だとしか思えなかった。

でも彼女の声はどこか緊迫感があり、気弱に震え、時折鼻をすする音がした。

俺は責めることも出来ず、ただ優しく相づちを返すと、彼女は親友の事を教えてくれた。

マオにとってその親友は妹のように世話の焼ける子で、いつでもマオにべったりだったそうだ。

マオの家に泊まりに来たとき、親友のために夕食を作っている間中ずっとくっついてくる甘えん坊だったり。

好きな人の話をするときは、恥ずかしくて顔を隠してしまう癖があること。

マオの相談には真剣に聞いて、必要なときはちゃんと叱ってくれること。

そして何より、マオにとって一番大切な友達であること。

それは嘘かもしれない。

だけど彼女の涙混じりの声が"真実なの"と俺の心を叩いてきた。

俺は彼女を信じた。


< 21 / 34 >

この作品をシェア

pagetop