語り話
「どこに行くの?」

マオは俺の前をずんずんと振り向くことなく歩いていく。

「私のお気に入りの場所」

やっぱり振り向いてはくれなかったが、声はいつもの優しいマオの声だった。

「ふーん。」

俺は辺りを見回した。

ギリギリ都会に見えた駅前をどんどんと離れ、住宅街に入る。

住宅街と言ってもマンションやアパートはほとんどもう見当たらない。

一軒家や公園、神社、学校など建物が点々とある中を道路がはうようにして張り巡らされている。

ちょっと気まぐれに横の細い道に入ったら、地元の人間でない限りすぐにもとの場所に戻れないほど迷路のような道を迷いなく歩いていくマオ。

その後をはぐれないように必死でついていく俺。

斜め下に揺れるマオの手があった。

初めてマオに会えたことが嬉しくて俺の頭はおかしかったんだ。

その手を繋ぎたかった。

でも繋ぐ理由がなかった。

嘘でも迷子になりたくないからなんて言うべきだったのかもしれない。

でもカッコつけたくて…。

さりげなくてを繋いだ方がいいのか?

でも一度は拒絶された俺がそんなことをしたら、リアルでもマオに遠ざけられてしまう。

でもここでマオの気をうまく引ければ…。

そうだ、マオが俺に惚れたら本当に付き合える約束!

でも手を繋いだからってそう簡単に変わるなんてことは…。

でも、でも、でもの自問自答でついには目的地についたらしく、マオが俺に立ち止まった。

「ここだよ」

俺が触れたくて仕方なかった手が目の前を指し示す。

がっかりとしながらも顔を上げるとそこは土手だった。


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