語り話
「別に星が見たいだけでここに来てる訳じゃないよ。
ここは夜景も綺麗だし、静かで好きなの」

「夜景?」

俺はもう一度身をのりだしてみる。

そんな大層なものは決して見えない。

俺が悪いんだろうか?

もう一度首をかしげる俺にマオは笑った。

「わかんないよね。
そんなすごい夜景じゃないんだけどさ。
光が川に反射して何本かの塔に見えるの。」

マオに言われて川を見下ろすと光の角度のせいか、細い光が手前に延びている。

「私には何だかそれが、もう一つの世界みたいに見えるの。
川が境界線みたいにのびて、川の中に浮かぶ幻想的な世界。
…やっぱ変かな?」

マオが少し困ったように首をかしげた。

だけど俺にも少し見えた気がした。

光の柱や塔、川の向こうを歩く人影が川が写す鏡の中では光にはしゃぐ子供のようにすら見えた。

「変じゃないと思う。俺もきれいだと思うよ」

何だか俺もほっとした気分になる。

「そう?たくさんの光がある夜景もきれいだとは思うんだけど、少ない光の方が生活感があって好きなの。
あぁ、ここに生きた人がいるんだなって」

マオの瞳が愛しい我が子を見つめるようにそつとふせられる。

俺はどうしようもなく彼女が愛しかった。


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