誠を掲げる武士
一通り片付けて終えた頃、遠くからギシギシと木の床が鳴る音が聞こえてきた。
誰かがこの部屋に向かってきた…?
緊張して体が強張る中、その足音の主が私の視界に現れた。
──着物…?
その人物はスラっとした長身の男性で、黒色の着物を適度に着崩している。
そして何故か、ポニーテール。
いやいや、それよりも衝撃的なのが、腰に刺してある小刀である。
完璧に時代劇を匂わせるのだが、その小刀が本物であった場合、銃刀法違反で引っかかることは間違いない。
ひくりと顔が引きつっている私と、ばちりと視線があった男性は、ようやく口を開いた。
あいにく逆光で男性の顔はうかがえないのだが。
「おう、やっとお目覚めかぁお嬢さんよぉ。」
生まれて初めてこんなにも、てっかてかの江戸弁を聞いた。
いやでも、江戸弁なんてちゃんと聞いたことがないから、わからないが。
そんな事を片隅に思いつつ、
「あ、はい。すみませんでした。なんだか、だいぶ寝ていたようで。」
と言い、私はぺこりと笑って頭を下げた。
「チッ、本当にな。
まあいい。ちょっと付いて来い。」
えっ、今舌打ちされた?!
何なんこの人は…。
ジーっと目を細くして見つめながら、私は言われた通りに立ち上がり後を追う。