誠を掲げる武士


「ぐっすり眠れたかい?」

「はい、大変よく眠れました。
ありがとうございます。」


最初に口を開いたのは、やはり正面の男性だった。


「それは良かった。」


にこにこと、本当に心からそう思ってくれていることが伝わる。



「あの…何故、私はここで寝ていたのでしょうか?
私、昨日、トラックと衝突事故に遭い、本来なら病院にいるはずなんですけど…。」


ずっとモヤモヤしている事を早く知りたくて、気づけば自分から問うていた。


「はて、“とらっく”…?
うーん、その辺はよく分からないが、君は昨日の夜、道端に倒れていたよ?」


「…はい?」


道端に倒れていた…?

しかも夜に?


全くもって意味がわからない。


私が事故に遭ったのは夕方で、薄れゆく意識の中で救急車のサイレンの音は聞いている。

あれが幻聴なはずがないとは、言い難いのだが…。


「すいません、よく状況が分からなくて…。
まず、ここは病院なのですか?」


「“びょういん”…?
いや、ここはトンショだが?」


「?…トンショ?」


あれあれ、可笑しいな。


聞いたこともない単語が出てきた。


病院を今のご時世、知らない人はいない。


こんな昔の時代を感じさせるけれど、流石に病院にご厄介になったことの一つや二つはあるはずだ。


「ああ、如何にも。
ここは壬生浪士組の屯所だ。」


「ミブロウシグミ…?」


…待て待て待て、どっかで聞いたことがあるような、無いような。

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