誠を掲げる武士
第1章
暗い闇の中、一つの光を頼りに筆を走らせる。
「──チッ、見え辛えな。」
蝋燭の灯りを頼りに書いているのだが、これがどうも心許ないのである。
今宵の月は半分。
だから、月明かりを頼りにしたくとも、どうもそうはいかない。
それに加えて、期日が近くなっている書類の山はこんもりとある。
様々な理由から苛々が募り、それが筆に現れるため、全く仕事が捗らない。
この暗闇に入ってから、より書き損じた紙が増え、部屋のあちこちに広がっている。
「チッ、やってらんねぇぜ。」
気分を変えようと、その部屋の主は煙管を咥え、縁側に出る。
雲が月を隠し、あたりの黒が濃くなったその時。
「──休息中、失礼します。
早急にお耳に入れていただきたいことがございまして。」
暗闇から配下の者が現れた。
「何だ、浪人かあ?」
しかし、部屋の主はその状況に対して微動だにせず、煙を充分に堪能し身体の外へと出す。
「いえ、それが珍妙な者を、彼の方が連れて帰られてきまして…。」
「はぁ…またか。
そいつあ、どこにいる。」
「彼の方のお部屋に。」
部屋の主は一つ大きな舌打ちをすると、煙管を袖にしまい、その部屋へと向かった。