誠を掲げる武士
「まあ、面倒な仕事をお前がしてくれていると言うことは私もよくわかっている。
だから、身なりを整えておくことも武士の心得でもあるのだが、こればっかりは仕方がないと思っている。」
「…ああ。」
最もすぎてぐうの音も出ない。
「そこでだな。
前々から、お前の身の回りの世話をしてくれる者を探していてな。」
おいおい、まさか…。
「この女子を、お前の小姓にするのはどうだろうか?
女子だから、きっと、男と違って細やかなところに気を配ってくれるぞ。」
名案だと言わんばかり満面の笑みを、俺に向けてくるが、俺の顔は一切晴れることはない。
「はぁ…かっちゃんよお、こいつぁ女子だぞ。ここがどう言う場所がわかってんのか?」
ここは狼の巣窟と言われてるところだぞ。
そんな所に女子がいるとなると、一匹の兎を大群の狼が狙っているのと同じ。
「あぁ、だからお前の側に置くんじゃないか。トシの側なら、誰も手出しできないしな!」
がっはっは!、とついには大口を開けて笑い出した。
「…チッ。
…かっちゃん、この話、俺に相談する気なんて鼻からなかっただろ。」
きっとこのお人好しのことだ、助けた時から決まってたんだろう。
「がっはっは、こりゃあたまげた!
ばれてしまったか!」
「…知らねぇぜ、どっかの間者だとしたら。」
俺の一言で、ピリッとした空気が部屋に立ち込める。
「その辺は今調べてる。
──だが、何も出て来んだろうな。」
何故かそう言い切ったかっちゃんの顔は、とても真剣で、俺は何も言い返すことができなかった。