心の裏側と素肌の境界線を越える為に
「何なんだよ」

思い切り叩き込まれたパンチは、鼻を直撃していた。

鼻血が出ていないか確認していると、

後ろから声がした。

「好かれてるのね」

「え?」

振り返ろうとすると、横を片桐が通り過ぎ、少し前で止まった。

「羨ましい」

片桐の言葉に、俺は驚き…慌てた。

「あ、あいつとは、何も…」

言い訳しょうとした俺を、振り向いた片桐がじっと見つめていた。

俺は何も言えなくなり、息を飲み込んだ。


そんな俺に微笑むと、片桐は前を向いた。


「気持ちを素直に、相手にぶつけられる…。あたしにはできないことだから」

ゆっくりと廊下を歩き出す片桐の後ろ姿を、

俺は普通に見送ることしかできなかった。
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