心の裏側と素肌の境界線を越える為に
俺の言葉に、片桐は少し驚いたような顔をした後、

「ありがとう」

と礼を言って、前を向いた。

その時、ほんの一瞬だけ、

俺に微笑んだ片桐の顔が、俺の息を止めた。




「た、太一!」

耳元で大声を出され、俺はびくっとして、

再び現実に戻った。

「帰るぞ!」

強引に俺の腕を取った美佳は、怒ったような顔をしながら、教室の外に連れ出した。

そして、キョロキョロと廊下の左右を確認した後、

片桐が歩いていく方と反対側へ、俺の手を引いて歩きだした。

「何だよ」

俺には、美佳の行動の意味が理解できなかった。
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