心の裏側と素肌の境界線を越える為に
息を整えながら、俺の目は…近付いてくる片桐だけを見つめていた。


最初は、その視線に気づかなかった片桐も、

仁王立ちのように立つ俺の存在に気付いた。

と同時に、俺の目が自分を見ていることにも気付いた。

だからといって、片桐は足を止めることはない。

対角線上にいる俺を避けることもない。

ただ自然に、少しだけ横にずれると、

俺のそばを通り過ぎる。


声をかけようとしたが、俺の口から言葉が出ない。

体の自由もきかない。


この瞬間、俺は本当に彼女に惚れてしまったのだろう。

そのことに、その瞬間の俺は気づかない。

ただ…片桐に声をかけなければと、気持ちだけが先走っていた。
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