心の裏側と素肌の境界線を越える為に
片桐が、俺から通り過ぎた…長い数秒後、

やっと体が動いた。


「片桐!」

また呼び捨てにしてしまった。

さっきもそうだが、俺と片桐の間にはクラスメイトという接点だけで、

話したことはない。

普通なら、聞こえなかったフリをして、

そのまま改札を通ってもいいはずなのに…。

片桐は足を止め、俺の方に顔を向けた。

「何?」

少し冷たい言い方だけで、そこに刺はなかった。

だから、俺の足は動いた。

片桐に近づきながら、笑顔を作り、

「いっしょに帰らないか?」

軽く言ってしまった。


さっきが、気をつけて帰れで、

今はいっしょに帰ろうか…。

捻りがない。


だけど、それしか言えなかった。
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