婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「葛城さんってそんなにキスが上手いんだ」瑞希に冷やかされ私は頬を赤く染める。

「上手いかどうかは比較対象がいないからよくわからないんだけど、こう、離れ難くなるというか、蕩けるのよね、何と言うか」

「じゃあさー、中谷さんともしてみりゃいいじゃん。キス」

私は瞬間湯沸かし器ばりに、さらに顔を真っ赤にする。

「だって比較対象があれば葛城氏への想いが性欲か感情か解るじゃない。キスまでならお許しも出てる事だし」

性欲って…もう少しオブラートにくるんで表現してもらいたい。

「いや、私がその気でも向こうがどうかな」私は苦笑いを浮かべる。

「ここぞ!と言うタイミングにその小鹿のような目を潤ませて、ジッと見つめたら大丈夫!バッチリ!」

瑞希は自信満々に言うとグッと親指を立てる。

何が大丈夫なのか教えてほしい。そもそも私に「ここぞ!というタイミング」が図れるかも甚だ疑問である。

「あとは、本能のままに従う。自ずとどちらが好きなのか結論は出るわ」

「でも、どっちにしたって報われないよね」

中谷先輩が好きだとしても、葛城との結婚は決定している。

葛城が好きでも、気持ちは絵梨のものだ。

「結論が出た時点で迷いなさいよ。まあ、このまま宙ぶらりんにしておくのもお得だと思うけど」

ウフフ、っと瑞希は小悪魔の笑みを浮かべた。

両天秤にかけたまま同時進行するほどの度量は私にはない。

八方塞がりでも結論が出るならそれに掛けてみるのもありかもしれない。

私は小さくため息をついた。
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