婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「トイレから帰る途中で会ったんだ。席が空いて無くて帰ろうとしてたから一緒に食事しようって誘ったの」

「突然、迷惑じゃなかったかな」中谷先輩は爽やかにいう。

「いやいや、クラスメイトと思わぬところでご一緒出来て嬉しいよ」

…絶対、嘘。目が笑っていない。

どうぞ、と言って席に着くよう促される。

私は中谷さんと並び、葛城のはす向かいに腰を下ろした。

運ばれてきたビールで早速乾杯し和やかに談笑する。

「お二人を紹介して?匠」絵梨さんは可愛らしく首を横に傾げていう。

「クラスメイトの中谷佑介くん、とその後輩の小森遥さん」

私の事を『後輩』と紹介したところで、中谷さんは一瞬ハッと目を見開いた。

聡明な彼は全てを察したことだろう。

「遥ちゃんも祐介くんも東栄大って事は超優秀なのね」

そういう絵梨は私立の名門京葉大学だった。

そのコトを指摘すると「私は帰国子女だから、特別推薦枠なだけだもん」と言って、謙遜したつもりが、さりげなくお育ちのよさをアピールする結果となる。

「どちらに住んでいたのですか?」

「アメリカのボストンよ。匠と知り合ったのもボストンなの」

「旅行の時にでも知り合ったんですか?」私は尋ねる。

「ううん、匠は向こうのボーディングスクールに通っていたから」

「ボーディングスクール…?」意味が解らず聞き返す。

「全寮制の学校みたいなものね」

「日本で産まれた二人が地球の裏側で出会うなんてちょっとロマンティックですね」

私はホウとため息をついて言うと、絵梨はニッコリ微笑む。

しかし、葛城が海外の学校へ行っていた情報は漏らしていた。

覚えておこう。

私は心のメモに書き込む。
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