婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「だってさ、葛城もそう言ってくれてよかったね、遥ちゃん」中谷先輩が二コリと微笑みかける。

全く悪びれた様子はないけど、これは確信犯なのだろうか。

だとしたら、中谷先輩も結構なくせ者だ。

私はリアクションに困りヘラヘラと笑って誤魔化す。

その時携帯電話の着信音が鳴る。

「あ、ごめん。ママから電話だ」と言って、絵梨が中座する。

姿が見えなくなると、試合開始のゴングの音が鳴った…気がする。

「お前ら、どーゆーつもりだ」先ほどの柔らかな表情とは一転、葛城は冷ややかな目で私達を見据える。

「別に、ただ夕飯を一緒に食べている。それ以上でもそれ以下でもないだろ?」中谷先輩はケロリと言ってのける。

「まぁ、いい。絵梨には一切余計な事言うな」葛城は例の絶対的な笑顔を浮かべて言う。

だけど目は全然笑ってない。

「じゃあ、葛城も余計な事言わないでもらえるかな?俺と遥ちゃんのこと」

「好きにすればいいと最初から言ってるだろう。ただ、俺と遥の結婚は決まっていることだ。それをわきまえて行動することだな」

「人の事言えた義理かよ」中谷先輩は抑揚のない声で言い放つ。

私はどうしていいのかオロオロと二人の顔を交互に見つめる。

「それが聞ければ充分だ。行こうか。遥ちゃん」

そう言って、中谷先輩は1万円札をテーブルに置くと、席を立つ。

「で、でも」困り果てて葛城に助けを求める視線を向けたが、私の顔なんて全く見ていなかった。

どうして、何も言ってくれないんだろう。

腕を掴んで立たされると引きずられるようにして店を後にする。

葛城は引き止めることも、追いかけてくることも、ない。

無言のまま中谷先輩はグングン歩いて行く。私も黙ってその後をついて行った
< 116 / 288 >

この作品をシェア

pagetop