婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「どうしたの?それ」

「体育のバレーボールでアタックを顔面で受けました」

その光景を想像したのか再び中谷先輩は笑いだす。

「わ、笑い過ぎです」私はいたたまれなくなり涙ぐんだ。

「もう、笑わないから座って」

中谷先輩は腕を引いて、私を隣の席に座らせた。

顎に指を添え上を向かせると頬に手を当ててジッと顔を覗き込む。

「結構腫れてるけど大丈夫?これ内出血とかならないかな?」

中谷先輩は眉根を寄せる。

し、心配してくれるのはありがたいけど顔が近いわ。

じっと見つめられると、不謹慎にもドキドキしてしまう。

「おいおいおい、人の婚約者になにセクハラしてるんだ?」

聞き覚えのある話しかたにギクリとして、声のほうへ振り向く。

「なんちゃってー」

そこにいたのはニヤニヤ笑う藤原だった。婚約者殿の声色を真似していたみたい。

隣には麗しの田中も立っている。

2人は当然のごとく、私たちの席に座った。

「人目をはばからず見つめ合っちゃって、夏休みに小森ちゃんと急接近か?」藤原がニヤリと笑う。

「別にそんなんじゃない」中谷先輩は、軽くながす。

「匠は絵梨に夢中だからな。遥は中谷に構ってもらってんのか?」

「相変わらずデリカシーがないわね」

キッと睨みつけたが、田中は私の顔を見てギョッとした表情を浮かべる。

「なんだ、その顔面は。DVか?」

「体育のバレーボールでアタックを受けただけよ!た、たまたま顔面で」

私が答えると田中と藤原も声を上げて笑いだす。ちゃっかり中谷先輩までどさくさに紛れてまた笑っている。

「やっぱり、遥はおもしろいなぁ!」田中は大きな手で私の頭をグリグリ撫でる。

「おい、稜、どさくさに紛れてセクハラか」またもや空かした声が聞こえた。 
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