婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「中谷先輩…あの…」なんとか誤魔化そうと口を開くがなかなか上手い言葉が見つからない。

「中谷先輩って…まさかあの!中谷先輩か?!」

オーナーが顔を近づけて不躾に中谷先輩をジロジロと眺める。

当の本人は食い入るように見つめられて、戸惑ったように笑みを浮かべている。

っち、余計なことを。

私は苦々しい気分になる。

これじゃ、バイト先でも中谷先輩との事をペラペラ話していることがバレバレじゃないか。

「いいから、さっさと席に案内してもらえませんか?」私は強めの口調で言う。

これ以上おっさんが余計な事を言い出す前に、さっさと中谷先輩から引き離したい。

おお、これはこれは、とワザとらしく言って、オーナーは窓辺のソファー席へと案内してくれた。

「なんでオーナーが兄弟って教えてくれなかったのよ?!」

席につくなり、私は藤原に詰め寄る。

「兄弟って言っても、兄貴は実家を出て独り暮らししてるから、そんなに顔を合わせることはないんだ。あんまり家庭内には興味がない人だから、俺が東栄大ってことも知らないかもなー」

藤原氏はアハハっと陽気に笑う。

そっくりな割に、意外とドライな兄弟関係のようだ。

「いらっしゃい」バイト先の先輩である尋英さんが、お冷とメニューを持ってきてくれる。

「今日はどうしたの。顔に絆創膏つけながらボーイフレンドを引き連れてくるからビックリしたわよ」

尋英さんが悪戯っぽく微笑む。私はアハハっと苦笑いを浮かべた。

「しかも藤原さんはオーナーの弟さんなんですよ」藤原氏を紹介すると、「まぁ!」と驚いて、尋英さんはマジマジと弟の姿を眺める。

「お姉さん、美人だね。今度合コンしようよ」藤原は二コリと屈託のない笑顔を向ける。

「血は争えないのね…」尋英さんは目を呆れたように目を細める。

「振られたな、藤原」中谷先輩が突っ込むと男性三人は可笑しそうにケラケラ笑い合う。

ったく、小学生かよ。
< 126 / 288 >

この作品をシェア

pagetop