婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「俺じゃサンオクエンはどうしようも出来ない。だけど、遥ちゃんの側にいたいんだけど」

「中谷先輩…」

「もう中谷先輩はナシにして。ほら、もう大学生だし」

「じゃあ中谷さん?」他人行儀だな、と言って中谷先輩は片眉を上げた。

「名前がいい、ってか俺の名前知ってる?」

当たり前だ。私のストーカー歴を舐めてもらっちゃ困る。

「佑介…さん」中谷先輩は嬉しそうにニッコリ笑う。

「まずは呼び方から変えてもらえればいい」

私は照れながらこっくり頷いた。

「あと、もう一つ」中谷先輩はピンと人差し指をたてる。

「俺は遥ちゃんが思っているような好青年なんかじゃないから」

言っている意味が解らず私は首を傾げた。

「好きな子と一緒にいたら、色々したいって思うよ。その…男だから、一応」

色々って…色々ってどんなこと?いや、でもそうしたいと思うのは好きな子だからであって。

いやいや、そもそも好きな子とは私の事?いやいやいや、勘違いだとしたら相当痛い。

思わぬ事態に私の思考回路は迷走しまくり、パニックに陥る。

「困らせちゃったみたいだね」中谷先輩…改め、佑介さんはフッと鼻で笑う。

「す、すいません。正直混乱しています」私は真っ赤になりながら両手で頬を抑えた。

手の届くはずのない憧れだった人が、急に血の通った生身の男性に感じられてドギマギしてしまう。

「いいよ、まだ時間はあるから」私の手を取るとにっこりと無邪気な笑みを浮かべる。

そのまま手を繋いで駅までの道のりを歩いたけど、私は恥ずかしくて佑介さんの顔をまともに見ることが出来なかった。


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