婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
3限目の講義が終わると、カフェテリアで葛城を待つ。

早く来ないかな…

売店で買った缶ジュースの淵を苛立だしげに指先でなぞる。

こんな時に佑介さんに会ったら、どうしよう。

葛城と二人でいるところは何となく見られたくない。

それでなくても、あの日以来顔を合わせるのが気まずくて、姿を見かけると微妙に避けてしまっている。

ヤキモキしているところに授業を終えた葛城が姿を見せた。

「葛城さん!」慌てて席から立ち上がり、駆け寄っていく。

「遥、待った?」私はプルプルと首を横に振る。

じゃ、行こうか、といって葛城は手を握ろうとしたが、私は反射的に交わしてしまう。

一瞬こちらに振り向いたので、ニッコリ笑って誤魔化した。

いつもと違う私の様子を特に気に留めることなく、葛城は踵を返し速足で歩いて行く。

その後を私はパタパタと小走りで追いかけた。

キャンパスを出ると、近くのコインパーキングへ向かう。婚約者殿は本日車でご登校されたようだ。

目的の場所へ到着すると、2シートの真っ赤なスポーツカーが停まっているのが真っ先に目に入る。

「まさか…あの車?」私が恐る恐る指さすと「カッコいいだろ」と言って得意気にニヤリと笑う。

お坊ちゃまが乗るにはベタ過ぎて、ギャグかと思った。

正直乗るのは恥ずかしいけど「素敵ね」とお世辞を言う。私だってそれくらいの良識は備えている。

「ウィンドウ開ける?」

「結構です」とキッパリお断りしたが、葛城は無視してウィンドウを全開にする。

断ったはずなのに、いや、断ったからこそ嫌がらせなのかもしれない。

もんの凄いエンジ音がするド派手なスポーツカ―は当然のごとく目立つ。

しかし、助手席には下手すれば女子中学生に見える私が乗ってるものだから、信号待ちのあいだ通行人からは奇妙な目で見られ、妙に居心地が悪かった。

絵梨だったらきっとすごく似合っていただろう。

この車で唯一気に入った点と言えば速い事だ。それを言ったら葛城に「感性の欠片もない」と言って呆れられたけど。
< 135 / 288 >

この作品をシェア

pagetop