婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
どうしよう…

嫁にもらっていただかないと我が家は路頭に迷ってしまう。

可愛い弟達の顔が脳裏を過った。

「あ、あの…私、頑張りますので、どうか婚約破棄だけは…ご、ご勘弁を…!」

目に涙を浮かべて懇願する。

もうプライドもクソもない。あるのは3億円の借金だけだ。

葛城親子は必死な私を見て、きょとんとしていたが、次の瞬間笑い出した。

「婚約破棄なんてしないよ」葛城父は可笑しそうに笑いながら言う。

「へ?」私は阿呆のようにポカンと口を開けて聞き返す。

「私達は素直で真面目な遥さんを心から歓迎しているんだよ。それにとても愛らしい」

葛城父は二コリと優しそうな笑みを浮かべる。

「で、でも、私は何も出来なくてこちらのお家に相応しい人間だとは思いません…」

私は膝の上に置かれた手をギュッと握る。

「結婚後、遥さんには色々な場面でも匠をサポートしていってもらうことになる」

「…は、はい」私は消え入るような小さな声で返事をする。

こんな何もない私が葛城さんをサポート出来るか、正直自信がないのだ。

「しかし、いきなり三年後に全ての事を卒なくこなすのは、話しを聞く限り少し難しいように思える」

いや、少し難しいどころか絶対無理だ。

「しかし、遥さんは若い。そして幸いにも東栄大へ現役で合格する程度に賢い」葛城父は人差し指をビシっと私に向ける。

「だから、うちでこれから色々な勉強してみないか?」

葛城父はニッコリと微笑みながら言った。

「べ、勉強、ですか?」父はこっくり頷いた。

「語学を中心として、政治、経済、テーブルマナーや作法、君が望むなら着付けや料理、ゴルフやピアノなども学べる環境を整えよう」

「そ、そんなに…?」私は呆然とする。

「もちろん、無理にとは言わないわ。ようやく大学受験が終わってホッとしているところだろうから、もう少し先になってからでもいいの」

葛城母は慌ててフォローする。

少し先、なんて冗談じゃない…
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