婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
レストランに行ってきちんとした食事を食べるには遅い時間だったので、ホテルのラウンジで軽くすませることにした。

クラブサンドとカフェオレ、葛城はビールを其々注文する。

「あのスピーチの無茶振りはないわ」

私は異議申し立てると、クラブサンドがぶりと頬張る。

「リアルでマイクに頭をぶつける人って初めて見たよ」

葛城はその光景を思い出したのか、おかしそうにクスクス笑う。

「確かにあんなベタな失敗はなかなかないよね」

よかった、ちゃんと笑えるみたい。葛城の笑顔を見て安堵する。

私もつられて、笑みを浮かべた。

「そういえば、今日お友達が出来たんだ。彩さんって方なんだけどとても可愛らしいのよ」

沈黙を避けるように話し続ける。

「婚約者の方と来てたんだけど今度匠さんも一緒に四人で食事しようってお誘いを受けちゃった」

「遥はなかなかの社交家だな」葛城は冷やかすように片方の眉を上げる。

「侮ってもらっちゃ困るわ」私は得意気にニヤリと笑った。

「ところでその婚約者って誰なの?」葛城がビールを飲みながら尋ねる。

「五十嵐大樹さん。五十嵐建設の」

「え?!」葛城はギョッとした表情を浮かべた。

「知り合い?」私は小首を傾げて尋ねる。

「知り合い、ではないけど知ってる。五十嵐建設の代表取締役社長の息子だよ」

「じゃあ、匠さんと同じ御曹司って事?」そんなとこだ、と言って葛城は肩を竦めた。

「ねえ、また彩さんと会いたいな。匠さんも一緒に食事に行ってくれる?」私は上目で顔色を伺う。

「もちろん。五十嵐建設の次期社長とコネクションが持てるとは願ってもないチャンスだ。でかしたな、遥」

そっちかよ…。

思わず心の中で突っ込むが葛城が頭を撫でてくれたので、よしとしよう。
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