婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
ここまで話すと、会話がフト途切れた。

私にとっては気まずい沈黙だ。

やっぱり、絵梨の話しに触れないのは、逆に不自然過ぎる。

カフェラテを一口コクリと飲んで覚悟を決めた。

「今日は、でしゃばった真似をしてごめんなさい。あの…彼女のこと」

葛城は絵梨さんの話しを出すと機嫌が悪くなるので遠慮がちに言う。

「いや…悪いのは全て俺だから」葛城の笑みが少し強張る。

「遅かれ早かれ、多分こうなっていた。きちんと話しをしていれば彼女にあそこまでさせる事もなかった」

僅かだが葛城が辛そうに眉を顰めたので、やっぱりこの話はしない方が良かったかな、と少し後悔する。

「ありがとう遥」

「へ?」意味が解らず私は聞き返す。

「嫌な役をさせてしまったね」

葛城はじっと私を見つめる。

「べ、別に匠さんのためだけにした訳じゃありません」

葛城は私が絵梨を傷つけたことは本意ではないと解ってくれていた。

思わぬ台詞に涙腺が緩みそうになる。

「あれ以上騒ぎが大きなったらみんなが損するだけですから」

それを見抜かれないよう私はまた可愛気のない態度をとる。

「確かにその通りだ」葛城は眉根を寄せて唇を歪めた。

流石に今日の事では落ち込んでるみたい。いつもの意地悪や軽口を叩く余裕はなさそうだ。

「そうだ!」突然声を上げたので葛城はピクリと肩を痙攣させる。

私は荷物の中から紙袋を一つ取り出し、葛城に差し出した。
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