婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「何これ?」

「匠さんにプレゼントです。今日誕生日でしょ?」私は得意気に笑う。

「渡す暇がなかったから、今度会った時でいいやって思ってたんだけど当日に渡せてよかったです」

「開けていい?」

「恥ずかしいから家で開けてください」と、言ってる側からゴソゴソと包装紙を開封している。

相変わらず私の言うことは全く聞いてくれない。

蓋を開けると箱の中からキャメル色のマフラーを取り出した。

「ちゃんとカシミア100%ですよ」

「高かったんじゃないか?」

葛城が値段の事を気にするなんて。私は意外なリアクションにクスクス笑う。

「いつもご馳走してもらってるし、色々買ってもらってるのでそのお礼です」

「ありがとう。その…まさかプレゼントまで貰えるとは思わなかったから、嬉しい。結構…じゃなくて、すごく」

饒舌な葛城が珍しく言い淀むので、私はフフっと笑ってしまった。

「貸して」葛城からマフラーを受け取るとそっと首に巻いてやる。

上品なキャメルの色が、一見すると柔らかな印象を与える葛城にとてもよく似合っている。

「自分で言うのも何ですが、すごく素敵です」

「とても気に入ったよ、本当にありがとう。大事にする」

葛城が珍しく無邪気な笑みを浮かべた。

その笑顔を見つめていると、なにやら胸に熱いものがジンと込上げてくる。

プレゼントは貰う方だけではなく、あげる方も嬉しいものだということを、私は初めて知ったのだった。


食事を済ませラウンジを出ると、ホテルのエントランスまで葛城を見送りに行く。

「ずるいな、遥だけ。贔屓だ」葛城は不満気に言う。

まるで子どもみたいだったので、私は思わず笑ってしまう。

「じゃあ、匠さんも泊って行きますか?」私の大胆な台詞に、葛城は目を丸くして、素で驚いた顔をしている。

「遥も随分大胆な冗談を言うようになったね。今日は笑えそうもないけど」葛城は苦笑いを浮かべる。

「冗談でこんな事は言えません」私は真っすぐに葛城を見据える。

本当にこのまま葛城を帰したくないと思った。
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