婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
匠さんは炬燵から出ると、お風呂に入って着替えてくるため、一旦本宅へ戻っていった。

家の中はシンと静まり返る。

やっぱり、1人だと心細くてしょうがない。

私は寂しさを振り払うようプルプルと頭を振った。

一先ず、お風呂に入ろうと、着替えを箪笥から取り出し浴室へと向かう。

古い建物だったので期待してなかったけど、浴室はリノベーションされたようでとても綺麗だ。

浴槽は小柄な私だと充分に足を伸ばせるほど広い。

ゆったりとお湯に浸かり今日一日の疲れを癒した。

お風呂から上がり、ルームウェアに着替えると、洗面所で髪を乾かし化粧品で肌を整える。

サッパリしてリビングへ戻ると既に葛城の炬燵に入り本を読んでいた。

「匠さん!早かったのね」私は思わず笑みを浮かべた。

「ゆっくり出来た?」私はコクコクと頷く。

匠さんはフリースにスウェットを着て眼鏡を掛けている。

お風呂上がりなので前髪は下ろし、例のごとく幼くなっている。

何時ものようなエレガントな格好も素敵だけど、ラフな格好は堪らなくキュートだ。

私は隣にちょこんと腰を下ろした。

「鍵掛けたと思ったんだけど、もしかして空いてた?」

匠さんはポケットから鍵を取り出して私に見せる。どうやら合いカギを持ってるらしい。

「またスペアキーをくすねてきたの?」私は訝しげな視線を向ける。

「いや、父から預かった」

「え…?!」私はギョッとして固まる。何かあった時のためにスペアキーを預けるなら轟さんにしてほしい。

「俺が此処に来るのは親公認、って事だ」匠さんはニッコリと艶やかな笑みを浮かべる。

「さすが優等生の匠さん、ご両親の信用も絶大なのね」私も負けじと微笑み返す。

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