婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「確かに親の期待に答えるのも子の役目かもしれないな」葛城は顎に手を置いてもっともらしく頷く。

「母が楽しみにしているようだよ」

「ま、まさか…」

私はジリジリと後退るが葛城に腕を掴まれる。

「双子ちゃん」匠さんは耳元で囁き、唇の端をあげてニヤリと笑った。

「いや、ででで、でも今子どもが出来たら、花嫁修業が出来ません!学校もあるし」

私は一気に顔を紅潮させる。

「なーんちゃって」

私が焦る姿をみて、匠さんは満足そうに笑う。

「ここじゃしないでしょ」

匠さんはひらりと身体を離す。

「し、失礼ね。私の部屋は資料だらけの研究室以下ってこと?」私はムッとして言い返す。

「あ、よく覚えてたね」

匠さんはおかしそうにケラケラ笑う。

「やめてくれよ、あんなとこで最後迄する程節操なしじゃない」

いやいや、女と乳繰り合ってる時点で充分節操がない。優等生が聞いて呆れる。

「それに、今日は引越しで疲れてるでしょ。遥はもう寝なさい」私の髪をくしゃりと撫でた。

「じゃあ、匠さんが一緒に寝てくれるなら寝る」私は匠さんの袖口をギュっと握り締める。

しばし沈黙のあと、解った、と渋い顔で葛城は了解してくれた。

私は実家から持ってきたベッドマットにゴロンと横たわると隣をポンポンと叩いて来るよう促す。

匠さんはやれやれ、と言わんばかりに重い腰をあげて布団の中に入って来た。

眼鏡を外して、脇に置いてあるサイドテーブルにコトリと置いてゆっくり横たわる。

「…なんか、すっげー遥の匂いがする」と言って匠さんはギシリとベッドに横たわる。

「自分じゃよくわからないや。く、くさい?」

「なんか…甘い香り」

匠さんは仰向けになり天井を見つめながら言う。

「一晩くらい我慢してよね」

「うん、一晩だったら何とか我慢出来る、と思う」

「男の人は苦手な香りかもね」私はクスっと笑う。
< 186 / 288 >

この作品をシェア

pagetop