婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
どこに連れてってくれるのかな。

私はチラリと匠さんの様子を覗き見る。

別段変った様子もなく窓辺に肘をつきボンヤリと窓の外の景色を眺めている。

今日は細身のカーゴパンツに黒いブーツを履き、白いシャツに黒のジャケットを合わせている。

うーん、素敵。

そのエレガントな姿に改めて惚れ惚れしてしまう。

キャバ嬢に絡む酔っ払いおやじのごとくすり寄って行く。

「どうしたの?」こちらに振り向き目元をスッと綻ばせる。

私は何でもない、というように首をプルプルと横に振った。

私は匠さんの手に指をそっと絡ませ、肩にちょこんと頭を乗っける。

キス…したいかも。

でも、寡黙な運転主川上さんがいるからそんなビッチな真似は出来やしない。

そこで私はハッとする。

匠さんと最後にキスしたのって、いつだったけ…

すぐには想い出せないほど随分前だ。

私は記憶を遡ってみる。確か誕生日パーティーがあった日が最後だったと思う。

は…は…半年前?

時の流れに私は愕然とする。

婚約者と同じ敷地内に半年もの間住んでいるのにキス一つしてないなんて。

100歩譲って私の色気がないとしても、これはさすがに異常なんじゃないか。

私はサーっと青ざめる。

「どうしたの?遥。グッタリしてるけど、車酔いでもした?」

驚愕の事実に気が付き呆然としている私に、匠さんは労わりの視線を向ける。

そう、この眼差し…まるで穏やな春の日の凪のよう。
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