婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
目の前に見えたのは、私のバイト先であるカフェ、SAKUだった。

まさか、誕生日にバイト先で食事するの?

まぁ、別にそれはそれでアリなのかもしれないけど、秘密にするようなことではない気がする。

「わぁ!バイト先でお誕生日なんて!なんだか夢みたい!」

…動揺のあまり、上手い悦びの台詞が見つからず、変に大袈裟な言い回しになり嫌味っぽくなってしまった。

匠さんはナチュラルに微笑み返し、行こう、と言って肩を抱きエスコートしてくれた。

しかし、お店に近づくにつれて、いつもと雰囲気が違うことに気がつく。

なんだかいつもより人が多くて騒がしい。今日は混んでるのだろうか。

「よ、予約してくれてるよね?」私が心配そうにチラリと見上げると、勿論、と言って匠さんはニッコリほほ笑む。

店の前に行くとドアに『reservation』の札が掛かっている。

「え、今日貸し切りみたいだけど大丈夫?」私は怪訝な視線を向ける。

「だから言っただろ?予約してあるって」

「…まさか、店ごと?!」匠さんは再び「勿論」というと、花のような笑みを浮かべた。


ドアを開けるといつもより大音量で音楽が掛かっており、店内の照明を落とされている。

「お!来たな!ツチノコ妹!」オーナーが笑顔で出迎えてくれる。

「おめでと、遥ちん」尋英さんがニッコリほほ笑む。頭にオモチャのティアラを乗っけて、赤いサテンのマントを掛けてくれた。

「な、なんの真似ですか?」私は怪訝な表情で二人を交互に見る。

「何って、遥の誕生日パーリーに決まってんじゃねぇか!」オーナーは私の髪をグシャグシャと撫でた。

「ええ?!」私は驚いて葛城を見上げる。

「そ、遥のお誕生日パーティー。俺だけお祝してもらうのも気が引けるから」匠さんは冗談っぽく顔を顰めた。

「え、ええええー?!」

「さ、行こうか、奥さん」匠さんに手を引かれるフロアの方へ連れて行かれる。
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