婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「じゃ、つぎ中谷な」田中はケロリと言い放つ。

「お、俺はいいよ」佑介さんは照れて遠慮するが「えーなんかテンション下がるぅ!」と言って瑞希が茶々を入れる。やっぱり小悪魔だ。

「おまえな、中学生日記かよ。お遊びなんだから深く考えてるほうがエロいぞ?」藤原が呆れたように言う。

「えろ―」「むっつりー」田中と瑞希は外野からヤジってきた。

「え、あ…じゃあ」佑介さんは手で口元を隠し小さく咳払いする。

なんだか私までドキドキしてきてしまう。

佑介さんは身を屈めると頬にそっとキスをした。

「おい、中谷、何の真似だ?」

声の主の方へ皆が一斉に振り返る。

匠さんが赤ワインのボトルを片手にニッコリと口元に笑みを湛えながら立っていた。しかし目は全然笑っていない。

田中と藤原はゲラゲラと声を上げて愉快そうに笑う。

顔を引き攣らせている葛城に、瑞希が北欧の言い伝えの件を説明する。

しかし匠さんは「そんな言い伝えなんて何の根拠があるのだか解ったもんじゃない」などと小学生ばりのイチャモンをつけきて、依然納得していないようだ。

「もーお遊びなんだからいいじゃない」私は呆れたようにスッと目を細めた。

「そんな事いってこのお祝に乗じてキスされてまんざらでもないんじゃないか?」さすが匠さん、鋭い所をついてきた。

「思ってるわよ。みんなにキスしてもらって嬉しいわ」ここは変に隠さずにありのままを言う。

「遥!いつからそんなふしだらな女になったんだ!」

「匠さんに言われたくなーい」私は鼻の頭に皺を寄せた。そーだ、そーだ!と外野がヤジる。

「アパレルショップの女とはどうなったー」どさくさに紛れたヤジに、私は視線を鋭くさせる。

「ア、ア、アパレルショップの女って何なのよ!」

「だ、誰だ?今アパレルショップって言ったヤツ?稜か?藤原か?」

匠さんは慌てた素振りで藤原達に視線を向ける…が誰もそっぽをむいて目を合わせようとしない。
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