婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「えー私もう少しここにいたい」

酔っ払い、と匠さんは眉を顰めると、有無を言わさず私の腕を掴んでぐいっと立たせた。

瑞希と悪友たちはギャーギャーと抗議していたが「ちょっと行ってくるね」と言って匠さんは例の絶対的なゴリ押しスマイルを浮かべた。

そのまま私は手を引かれ半ば強制的にフロアの方へと連行される。

「全く、あいつらは悪乗りし過ぎるんだ」匠さんは眉根を寄せてボソリと呟く。

「そういえば、アパレルショップの女って何よ?」

私は怒りが再燃してジロリと匠さんを睨みつける。

「私に嘘ついて、まだ他の女と遊んでるの?!」

私が詰め寄ると「藪蛇だ…」と言って匠さんは視線を逸らした。

その時、タイミング良く?「たくみー!」と名前を呼ばれる。

匠さんの知り合いらしき女の子二人組が声を掛けて近寄ってきた。

二人とも化粧は濃いけど、スタイルもよく華やかで、いかにも男好きしそうな感じだ。

「ああ、久しぶり」と言って、匠さんは手をあげる。

「稜達はー?」と言ってボブヘアの女が私と匠さんの間に割って入る。

「奥の席にいるよー」

「案内してぇ、匠ー」ボブヘアはスルリと腕を組んで甘えた声で言う。

「ええ…っと、今連れといて…」

「いいでしょ?ねぇ?お願い!」ボブヘアはしつこく食い下がる。

困ったなぁ、なぁんて言いながら、これ幸いと無理矢理連れていかれる体を装って匠さんはこの場から逃げようとする。

な、なんなの!あの女も私がいるのを解った上でちょっかい出すなんて図々しいにも程がある!

「ちょっと!待ちなさいよ!」私は声をかけ匠さんを奪還すべく追いかけようとするが、二人組の片われである巻き髪の女に突き飛ばされた。
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