婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「匠の中で、貴方は何となく特別だっていうのは薄々気付いてたわ。まさか婚約者だとは思わなかったけどね」

「そ、そんなことありません」匠さんは絵梨に夢中だった。

だからこそ、婚約者の私は疎まれていて、ある意味特別な存在だったかもしれない。

「最初、貴方がアルバイトしてるお店に行った時もずっと落ち着かなかったし、六本木で出くわした時も貴方達が帰ったあと匠がすっごく不機嫌になっちゃって大変だったんだから」

絵梨は想い出したようにクスクス笑う。

「匠が人の事で感情を乱すことなんてあんまりなかったから、正直焦ったわよ」

「でも、匠さんは絵梨さんをとても、大切にされていたみたいです。だから、私からは余計なことは言えませんでした」

すみませんでした…と私はボソリと呟く。

「まぁ、貴方もお家の事情が色々あったみたいだからね。匠から聞いたわ」

でも!と言って、絵梨さんはにゅっと私の頬っぺたを抓る。

「私は悲しみに暮れて身を引いたっていうのに、貴方が借金のために嫌々匠と結婚するのはやっぱりムカつくわ」

「ひ…ひたひれふ(い、いたいです)」

私は涙目で言う。

「わ、わらひらっれ、ひゃくみひゃんのほと」

「何いってるか解んないわね」

絵梨は眉を顰めて言うと、ようやく私の頬を解放する。

「い、今は借金の事がなくったって結婚したいと思ってます。私が匠さんを幸せにしてあげるんです」

「だって?どう?」絵梨さんが私の後ろに視線を向ける。

「なんだか上から目線だな」

聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。

私は恐る恐る後ろに視線を向ける。

いつのまにか匠さんがニッコリと満面の笑みを浮かべて、直ぐ近くに立っていた。
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