婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
9月某日

とうとう、匠さんが出発する日がやって来た。

寡黙な運転手川上さんの運転する黒塗りの車に乗り、お見送りをすべく、匠さんと一緒に空港までやって来た。

大きなスーツケースを引きずり、だだっ広い空港内を歩いて行く匠さんの後を無言でトボトボ付いて行く。

匠さんがチェックイン手続きを済ませている間、私はベンチに腰掛けて、行き交う人たちの姿をぼんやり眺めていた。

「遥」と声を掛けられて顔を上げる。

「行こうか」差し出された手を取って私は立ち上がる。

「何処いくの?」

「いいとこだよ」

匠さんは私の手を握リ返すと、そのまま引っ張って連れて行かれる。

相変わらず、超強引。

エスカレーターを上がり、お店やレストランがあるフロアをぐんぐん横切って行く。

突き当たりまで来ると、そこは飛行場が見渡せる見学デッキに続いていた。

ガラスの内扉を開けて外に出る。

9月になり、暑さは少し和らいだものの、空気はまだ生温かった。

ズラリと並んだ色とりどりのジャンボジェット機をフェンス越しに眺める。

「この中に匠さんが乗って行く飛行機はあるのかな」

「さあ、どうだろうね」

別れを目前にして今日の私たちは口数が極端に少ない。

「遥」名前を呼ばれて私は振り向いた。

匠さんはポケットに手を突っ込むと紺色の小さな箱をそっと差し出す。

「あげる」

ビロードの小さな箱をちょこんと私の手に置いた。

「開けてみて」

言われるがままそ箱の蓋を開くと、私はハッと息を飲んだ。

中にはプラチナにダイヤモンドを一石配した指輪が入っていた。

日差しを受けてキラキラと光り輝いている。

「綺麗…」

私はホウッため息を着く。

匠さんは指輪を手に取ると、私の左手の薬指にそっと嵌めた。

「うん、ピッタリ」

匠さんはニッコリと微笑む。
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