婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「楽しそうだね」

不意に話しかけられて私たちの会話が一旦中断する。

振り返ると、流行りのツーブロックに仕立てのよいスーツをさらりと着こなした男前がニコニコ笑顔で立っていた。

出た…下衆の総さま…。

私たちは顔をひきつらせた。

彼は小坂総一郎氏

同じマテリアル部門のエネルギー事業部に所属している。

語学堪能で頭も切れて、上司からの信頼も厚く、部下からも慕われている。その上かなりの男前だ。

当然ながら女性から大変人気がある。

彼は、持ち前のフットワークの軽さと要領の良さで社内外共に節操なく女性に手を着けていることから、いつしか「下衆の総さま」と呼ばれるようになった。

「また斉藤の悪口?」総さまは笑顔で確信をついてきた。

「まあ、似たようなことです」1番近い私が否応なしに答える。

「へえ、楽しそ」総さまは、唇の端を上げてニヤリと笑う。

「そういえばさ、今度労働組合の協議会を開くんだけど、その時に三人娘もお手伝い宜しくね」

えー!と言って私たちは顔を顰める。

「後で部長から指示が行くと思うんでよろしくー」

拒否権は、ない、ということだ。

総さまはキラリと輝く白い歯を見せてニッコリ笑うと、踵を返して去っていった。

「遥のせいだー」香織が怨みがましい視線を向ける。

「な、なんでよ。関係ないでしょ」まさかの責任転嫁に私は焦って口ごもる。

「そーよ。遥が総さまのお誘いを無下にするから仕事を絡めて強引に手伝いなんかに引っ張り出される羽目になんのよー!どーせ狙いはその後の打ち上げでしょー」

私たちまで巻き込んでね…と、ユミからもクレームが来る始末。

「いやあ、其れとこれとは…」

「関係ある!」ユミがピシャリと言って除ける。
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