婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「じゃあ、これで」

葛城は店員さんにカードを渡す。しかもブラック。

「え、そんな事されたら困る」私は慌てて止めようとする。

「いいよ、どうせ結婚するんだから」その理屈もよく解らない。

チラッと値札のタグを見ると78900円。一桁間違ってるんじゃないかと思った。

「本当に困るわ。こんな高い物」私は眉根を寄せて俯いた。

「それじゃあ遥、お礼に『ありがとう、あなた』って言って。笑顔で」

「ええ?!」私は顔を思いっきり引きつらせる。

「む、無理無理。公衆の面前だもん」

「あっそ」葛城は不満気に唇を尖らせた。

そして近くにあった淡いピンク色のニットを摘み上げる。

「これも、試着してみますねー」

近くにいた店員さんに余所行きの笑顔で声をけると、私の手を掴みグイグイ引っ張っていく。

「ちょっと!葛城さん!もう服はいらないです!」

必死の抗議も虚しく無視され試着室に押し込まれる。

葛城もスルリと入って来ると、後ろ手で鍵を閉めた。

「はい、2人っきりになったよ」

今度は爽やかな余所行きとは違う、底意地の悪い笑みを浮かべた。

「本当に悪趣味ですね」

「は・や・く」

葛城がにじり寄ってくるので私は後ずさった。
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