婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
早速、私は教えられたカフェに連絡して、面接をすることになった

大学から程近く、通りから一本脇道に入ったSAKUという名前のお店だ。

「はじめまして、店長の橘沙織と申します」出迎えてくれたカフェの店長は女性だった。

歳の頃はアラサーといったところだろう。小柄で、意思が強そうな瞳が印象的な美人だ。

店内の天井は高く、照明のペンダントライトが吊るされている。家具類はヴィンテージ感があるものをチョイスし、シックで小洒落た雰囲気だ。

「小森さんは、東大なのね。優秀じゃない」橘さんが履歴書に目を落して言う。

「勉強だけしかしてこなかったので」私は美しい店長に褒められてテヘっと笑う。

「じゃあ、アルバイトは初めて?」橘さんに尋ねられて、私はこっくり頷く。

「こうゆう素敵なお店で働くことにずっと憧れていました」

「なかなか上手いじゃない?」橘さんは悪戯っぽく言う。

「い、いえ!そんなつもりでは」私は慌てて否定した。

その様子がおかしかったのか、「冗談よ」と言って橘さんはクスクス笑う。

「未経験なので、最初はご迷惑を掛けてしまうかもしれないですが、頑張ります!」

意気込んで思わず両手の拳をギュッと握りしめてしまった。

「私も小森さんのように真面目で可愛らしい人が働いてくれたら嬉しいわ」

橘さんは笑うと、とても優しそうな雰囲気になる。もし私が男で、こんな笑顔を向けられたら一発で恋に落ちるだろう。

「いつからお願いできるかしら?」

「って事は?」

「採用です。よろしくね、小森さん」森本さんが左手を差し出した。

こんな素敵なお店で、こんな綺麗な人と一緒に働けるなんて夢みたい。

「いつからでも大丈夫です!よろしくお願いします!」と勢いよく言うと、橘さんのほっそりとした手を両手でギュっと握りしめた。
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