婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
そうして新入生歓迎コンパに誘われ、今に至る。

「ほら、遥、そろそろ中谷先輩に声を掛けてみようよ」

よい感じにお酒が入り、瑞希は勢いづいたようだ。

中谷先輩は大人びた女の先輩達に囲まれて、楽しそうに話している。

「いや…やっぱり無理だよ…私なんて地味だし、つまらない女だもん」

「それ、嫌味かしら?」瑞希は目をスッと細めて私を見つめる。

アルコールで頬がほんのり赤く染まった瑞希は女子の私から見ても色っぽい。

一方、私はチビの上に痩せっぽっちだ。

「それに…瑞希みたいに胸もないし」

「何よ、それ、女は胸ってこと?おっさんみたいなこと言わないでよ」

「飲んでる?」

声を掛けられて振り向くと、中谷先輩がにっこり微笑んでいた。

私たちが声を掛けに行く前に、友人をつれてこちらのテーブルへ移動してきてくれたようだ。

事もあろうに、中谷先輩は私の隣に腰を下ろす。

ああ、もう、興奮して、鼻血…出そう。

「小森さん、新歓コンパに来てくれたんだね」

嘘みたいだけど、中谷先輩がニッコリほほ笑みかけてくれている。この私に。

それだけで、2年間の勉強漬けの日々が報われた気がする。

「小森さんとはゆっくり話したいと思ってたから、来てくれてすっげー嬉しい」

中谷先輩が少年のように無邪気に笑ったので、つられて私も頬笑み返す。

瑞希はやったね、と言わんばかりにウィンクした。

中谷先輩が私を覚えていてくれた、サークルに誘ってくれた、隣に座ってくれた、そして私と話したいと言ってくれた。

ああ…幸せ…これで大学生活思い残す事なし。

そう思ったのが運の尽き。この時はもんのすごく近い未来に儚い夢のごとく私の楽しいキャンパスライフは幕を閉じるなんて思ってもみなかった。
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