婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「いらっしゃいませ… 」ニッコリと笑顔を浮かべた瞬間、固まった。

「あれ?遥?何してるの?」ソファー席に脚を組んで、優雅に座っている葛城の姿が其処にあった。

隣には、これまたウンザリするほどの美女が座っている。

しかし、これまで葛城が連れているような派手なタイプとは随分違う気がする。

よく手入れの行き届いた控えめなダークブラウンのロングヘアに顔からこぼれ落ちそうな程大きな瞳、唇はさくらんぼのように赤く艶やかだ。

服装もニットにパンツというシンプルなコーディネートだが、逆にスタイルの良さを惹きたてていた。

「あら、匠の知り合い?」女性が小首を傾げて尋ねる。その仕草も可愛らしかった。

「大学の後輩だよ」

葛城の返答にわが耳を疑った。

いつだって、たとえ女性の前でも私が「婚約者」である事を一切隠そうとはしなかった。

だけど、この人には、言わないんだ。いや、違う、きっと言えないのだろう。

きっと「本命の彼女」ってこの人のことだ。

「あら、可愛らしい方ね。いつも匠が御世話になっています」女性は二コリと微笑んだ。

その笑顔もとっても優しそう。きっと葛城が抜群のセンスで選んだ素敵な女性に違いない。

「いえ、どちらかと言えばご迷惑ばかりかけてます」私は苦笑いを浮かべた。

「いいのよ、お世辞をいわなくたって」女性は悪戯っぽく目を細めて言う。

「おいおい、やめてくれよ、絵梨。これでも優等生で通してるんだから」

おいおいおい、そっちこそ、なんの冗談だ?と思わず突っ込みそうになる。

「まぁ本当は悪い子なのにね」葛城と絵梨は見つめあってクスクス笑う。

何か、立ち入る隙なんて微塵もないほど二人は仲睦まじい。
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