婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「これどうぞ」グレーのTシャツワンピースとパーカーを手渡される。

燁子さんは兄の言いつけ通り、早速部屋へ着替えを取りに行ってくれたようだ。

「ありがとう」私は二コリと笑ってお礼する。

「しかし、お堅い匠ちゃんが、女の子を担いで帰って来た時は我が目を疑ったわよー。気が狂っちゃったのかって思ったわ」燁子はギシリとベッドに腰掛ける。

「お堅い?匠さんが?」燁子さんの発言に我が耳を疑う。

「そーよー、女の子なんて一度も家に連れて来た事ないもの。姉とあの歳で童貞なんじゃないかって本気で心配してるんだから」

「それは…ないんじゃないかな」童貞なんてとんでもない。女なんてとっかえひっかえだ。

…なんて事を妹さんにチクったら逆鱗に触れるのは目に見えているので黙っておこう。

「そうよね、遥さんみたいなキュートな婚約者がいるんですもん」燁子さんは悪びれなくニッコリ笑う。

「いや…私達は、まだそうゆう関係じゃないんだけど」またまたー!と言って肘で肩を小突かれる。

「さっきも仲良く抱き合ってたじゃなーい!」どうやらしっかり見られていたようだ。

「威張ってるし、地味だし、理屈くさくてつまらない男だけどさ、仲良くしてあげてね」結構な言われようだ。肉親だと容赦ない。

「そんな事ないですよ。葛城さんは、素敵な方です」不憫だったので思わず、庇ってしまう。

燁子さんがキョトンとした顔をしているので、私は真っ赤になって俯いた。

「遥さんみたいな人が婚約者でよかったな」燁子さんは嬉しそうに微笑んだ。
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