婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
シャワーを浴びて、お借りした服に着替えると、部屋から出てダイニングへ向かう。

板張りの床に赤い絨毯がひかれた廊下を歩いて行くと、大きな窓から緑に覆われた広大な敷地が望める。

ここはどこ?東京都内?

装飾が施された木製の手すりのついた階段を降りていくと、玄関ホールに出る。

そこで初老の紳士が出迎えてくれた。

目が合うと「小森さまですか?」と声を掛けられた。

「私はこちらの家で執事を務めさせていただいております轟と申します。以後お見知りおきを」

「昨日は夜遅くにお邪魔して申し訳ありませんでした」私は深く頭を下げる。

「可愛らしい若奥さまに一足早くお目にかかれて光栄です」轟さんは二コリと優しそうな笑みを浮かべた。

「匠様はこちらでお待ちですよ」轟さんは突き当りのダイニングルームへ案内してくれる。

ダイニングルームもこれまたゴージャスな造りで圧倒されてしまう。部屋の一角には暖炉まであった。

執事に暖炉って…中世貴族の館か…。思わず心の中で突っ込んでしまう。

ダークウッドの重厚な造りのテーブルを囲み、既に葛城と燁子さんは席に着いていた。

「なんか、すごいお家ですね…」

「ねー、無駄に広いのよねー。会話が聞き取り辛いからいっつも匠ちゃんとは隣に座って食事してるのよ」

確かに、葛城と私が隣合わせで並び、角を挟んで隣に燁子さんが座っている。テーブルは広いけど使っているのはごく一部だ。

昼食のメニューはハッシュドビーフにサラダ、コーンスープ、デザートに苺がついていた。意外にも庶民的だ。

「フレンチのフルコースが出てきたらどうしようかと思った」

「そんなのばっかり食べてたら身体に悪そうじゃない?」葛城は顔を顰める。

ハッシュドビーフを一口食べると濃厚で深い味わいだった。私は「おいしー!」と言って満面の笑みを浮かべる。

「いっつも、匠ちゃんと二人で食事してるから遥ちんが来てくれると楽しいな」燁子さんは無邪気な笑みを浮かべる。
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