婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
昼食が済むと、葛城が車で家まで送ってくれる。今日はシルバーの車だった。

「昨日の車とは違うのね」どのみち高級車である事には変わりないだろう。

「家の車だけどね。たまに乗らないと調子が悪くなるから轟さんとローテーションで動かすようにしてるんだ」

一体どれだけ車があるのだろう。

「燁子さんってとても楽しい人ね」

「本当にじゃじゃ馬で困ってるんだ」葛城は眉根を寄せたので、私はクスクスと笑う。

「今日はよく笑うんだな」

「そうかな?」

「いつもは怒った顔か困った顔しか見ないから」

確かに葛城と一緒にいてこんなリラックスした気分でいたのは初めてかもしれない。

「あなたが意地悪するからよ」私はチラリと横目で視線を向ける。

「遥を見るとね、ついからかいたくなるんだ」葛城はクスクスと笑う。

フロントガラスにポツポツと雨粒が落ちる。

さっきまで晴れていたのに、いつの間にか空には灰色の雲が立ち込めている。

ふと会話が途切れると、葛城が車のラジオをつけると静かなジャズが流れて来た。

葛城の方へチラリと視線を向ける。

無言のままハンドルを握る葛城の横顔は悪くない。

ギアに置かれた骨っぽくて男らしい手に触れてみたくなった。

な、何考えてるの!私!変態じゃない!!

ブンブンと首を振って邪な考えを振り払おうとする。

「どうしたの?」葛城が横目でこちらの様子を覗う。

「な、なんでもない…」私は乱れた髪を手櫛で直しながら言う。

変なの、と言って葛城はクスクスと笑った。
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