婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
窓の外の景色は徐々に見慣れたものになる。あと20分もすれば自宅に到着するだろう。

車内はジャズの音に紛れ、雨の音が響く。

次に、またこうして一緒にドライブするのはいつになるんだろう。

そう思うとこの穏やかな空気がなんだか名残惜しくなってくる。

まだ一緒にいたいって事なのかもしれない。


「着いたよ」

私がセンチメンタリズムに浸っていても、車は無情にも自宅へと到着する。

「あ、ありがとう」私は慌ててシートベルトを外す。

「俺も挨拶するよ」

葛城も車から降りて玄関でインターフォンを鳴らす。しかし、誰も出てくる気配はなかった。

「車もないから、多分外出してるんだと思う」

「そっか」葛城の肩に雨が降り注ぐ。

雨が降りしきるなか、私と葛城は向かい合った。

「色々ありがとう」

「あまり飲み過ぎるよ」葛城は柔らかく微笑む。

「うん」その目に見つめられると、気持ちを上手く言葉に出来なくなってしまう。

「じゃ、また学校でな」葛城は私の頭をくしゃりと撫でて車へ戻って行った。

いつもの台詞を言われると酷く寂しい気持ちになるのは何故だろう。

短くクラクションを鳴らすと、シルバーの車は走り去っていった。

その姿が見えなくなっても、私は雨の中にボウっと立ちすくんでいた。

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