婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
汗と涙がまじりあってグシャグシャになるまで私は泣いた、泣きまくった。

身体の水分が全部抜け切れるんじゃないかってくらい涙が出た。

気分が落ち着く頃には、本当にバイトに行く時間が迫っていた。

個室からノロノロと出て行き、習慣的に手を洗う。トイレの鏡に映った自分の顔を見てギョッとした。

泣き過ぎて目は腫れぼったくて鼻は真っ赤。

酷い顔…

化粧なんて殆どしていなかったので、冷たい水でバシャバシャと顔を洗う。

手持ちの化粧水で肌を整えて、滅多に使うことのないファンデーションを塗るといくらかマシになった。

さすが、百貨店で購入したファンデーションは高いだけあってカバー力抜群である。


外へ出ると、陽射しが照りつけ、うだるような暑さだ。

キャンパスを出て重い足を引きずりながらトボトボ歩いてSAKUへと向かう。

沙織さんや藤原氏と一緒に働けば少しは気が紛れるかもしれない。バイトが入っててちょっとよかったな、と思う。

店に到着して裏口から入ろうとすると「遥」と呼び止められる。

振り向くと店の前に葛城が立っていた。

「どうしたんですか、こんなところで」私は力なく尋ねる。

「今日、バイトだって聞いたから」

私は今まで泣いていた事を葛城に悟られたくないので「そうですか」と素っ気なく言って、顔を背ける。

目元と鼻はファンデーションで隠せても、目はうさぎみたいに真っ赤だった。
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