婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「可愛い気ゼロ」

店に入ると、突然オーナーが現れたので私はビクリと身体を痙攣させる。

「な、何してるんすか!こんなとこで」私は訝しげな視線を向ける。

「いくら酷い事を言われたからってあの態度はないだろー。だからお前はツチノコなんだよ」

どうやら葛城との一連のやりとりを立ち聞きしてたらしい。

「覗き見とは悪趣味ですね」私は腕を組んで避難の視線を向ける。

「葛城少年は、ずっと店でお前の事待ってたんだぞ。だから何かあったのかって気になっちゃってなー」藤原オーナーは私の頭をポンポン叩く。

私が来るまで葛城さんは待っててくれたんだ。

トイレでグズグズしてたので、カフェテリアで別れてから二時間はとっくに経っているはずだ。

その事実だけでも少し救われた気がする。

「そのうち面倒臭くなって放置されるぞー」

…もう既に放置されてるし。

そして今回の一件により、葛城が私を表現する形容詞に『ツマラナイ』に加えて『メンドクサイ』が追加された事は間違いないだろう。

「残念ながら可愛気っていうモノが何なのか正直私にはわかりません」私は自嘲気味に笑いながら言う。

「いいお手本が身近にいるじゃないか」

「へ?」私が聞き返すとオーナーは花のようにニッコリと微笑んだ。


制服に着替えるとフロアへむかう。
ディナータイム前なので店内の客足は疎らだ。

カウンターに立ってシルバーを磨いていると、オーナーが近づいて来てこそっと耳打ちする。

「いいか、18:00になると橘が気に入ってる常連が店に来る」

「は、はい」

「橘の立ち振る舞いをしっかり見ておくように」

オーナーはそう言い残すと、他の系列店舗の見回りに行ってしまった。
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